川橋 信夫

JSR株式会社 代表取締役社長兼COO

JKiCを世界に冠たるイノベーションハブに

JSR株式会社は元々、タイヤ原料のゴムを製造する高分子メーカーでしたが、これまでに半導体製造用部材、液晶ディスプレイ用部材等にも進出し、事業を拡大して参りました。今後はライフサイエンス事業を新たな収益の柱とするべく、より強力に推進して参ります。JSR株式会社はこれまでに培った高度な粒子設計技術、表面制御技術等をベースに、診断薬やバイオ医薬製造に欠かせない精製に関する製品を保有し、さらにグローバルに事業を展開するためにKBI Biopharma社、Selexis社、医学生物学研究所を傘下に収め、バイオ医薬製造技術、分析技術、Cell Line、抗体作製技術を内部に取り込みました。このような独自での新規技術開発に加え、オープンイノベーションで新技術を拡張していきたいと思っております。

その中でJKiCは、慶應義塾大学の医学部と病院という両方にアクセスでき、医療のニーズに触れられる最高の環境の中で新しい技術を創造できる、すばらしい研究所です。このJKiCを推進するには、掛け声だけではなく、大小様々なイノベーションが生まれる環境を作ることが重要と考えます。

イノベーションが生まれるには、バックグラウンドが異なる研究者らが様々な視点からタッグを組み、時間をかけ信頼関係を醸成し、深い議論を何度も行い、試行錯誤を繰り返すことが必要です。そのため、化学・素材メーカーが医学部・病院の敷地内に研究所を立て、その中で産・学・医の三者が共同で同じ場所で研究開発を行うという、世界でも例を見ない取組みを、JKiCで行います。また、研究開発を行うのみではなく、産学医連携部門を設置し、産・学・医、三者の連携を円滑に行い、新技術を社会に還元できる価値に変えるための運営部門も設置しました。JKiCを多くのイノベーションが生まれる場にしていきます。

さらにJKiCでは、イノベーションがまた違うイノベーションを呼び込むという好循環を生み出したいと考えております。研究者が新たな考えを生み出し、共有し、そして実現できる場所には、新たな野望を持った研究者たちが自ずと世界中から集まります。これがイノベーションハブです。シリコンバレーは一番分かり易い例でしょう。慶應義塾の医師や研究者がお持ちのアイディア、ニーズ、シーズを共有し、共同の研究開発を切磋琢磨しながら行うことで、実用化まで持って行けるように努めたいと思います。

JKiCから、多くのイノベーションが飛び立ち、それを通じて医療分野に革新を起こす事を期待しております。そして、その事によって健康長寿社会に貢献するとともに、多くの患者さんのQOL(Quality of Life)の向上につながることを切に願っております。