長谷山 彰

慶應義塾塾長

未来の医療を創出する産学医連携のあらたな舞台へ

慶應義塾における産・学・医療の連携の拠点として、JSR株式会社と本学による共同研究棟「JSR・慶應義塾大学 医学化学イノベーションセンター(JKiC)」が開所いたしました。慶應義塾大学医学部開設100年となる節目の年に、イノベーションを生むあらたな舞台がととのったことを大変喜ばしく思います。

慶應義塾は、1858(安政5)年、福澤諭吉によって創立された小さな私塾を出発点とし、民間有志の協力によって経営される義塾の伝統を守りながら成長を続けてきました。複雑に変化する社会の中で発展を続けるには、世界標準に適合すると同時に個性を持つことが大切です。
開設100年を迎えた医学部では、初代学部長である北里柴三郎博士が掲げた「基礎医学と臨床医学の連携」という理念を受け継ぎ、基礎臨床一体型の医学・医療を実践し、知識と技術、豊かな人間性を兼ね備えた、患者さんから信頼される医療人の育成に努めてまいりました。
今後もこれら創立以来の理念は変わりませんが、未来へ向けて発展を続けるため、時代に適合した教育、研究、医療のさらなる向上が求められています。そのためには、個性を持ちながらも分野や組織を超えた連携・融合が必要です。

近年、慶應義塾では、さまざまな分野にまたがる特色ある研究を「長寿」「安全」「創造」の3クラスターに統合し、資金や人材を投入する仕組みができあがりました。特に「長寿」クラスターにおいて、医学部・病院を擁する総合大学としての強みをいかし、健康長寿の実現に向けた研究を展開しています。とりわけ、医学部では、百寿総合研究センターをはじめ、超高齢者研究のフロントランナーとして、基礎から臨床まで一体となり健康長寿のテーマに取り組んでまいりました。また2018年春に竣工する新病院棟を中核として、超高齢社会で急増している複数の疾患を抱える患者さんに総合的に対応できる医療サービスの提供をめざします。

JKiCには、ライフサイエンス領域を戦略事業として位置づけ、先端材料・製品の開発を進めるJSRの研究者と、慶應義塾の研究者とが密に連携して研究に取り組む環境が整っています。双方の研究者がもつ医学的見地と素材開発の知見が融合してイノベーションを創出し、世界に貢献する産・学・医療の連携拠点となることを期待しています。