松尾 光一

JKiC研究部門長

互いにコンフォートゾーンを出て、
出会った異文化が生み出す本物の価値。

JKiCは、慶應義塾大学医学部信濃町キャンパスにおける産学連携の舞台のひとつです。企業が学内に建てた研究棟を大学に寄贈し、大学研究者と共同研究・開発を進める「イノベーションセンター」の第一号として誕生しました。

JKiCは、ライフサイエンス事業に力を注ぎ始めたJSR株式会社と慶應義塾大学医学部とのコラボレーションです。ここでJSR株式会社 の化学系研究者と、慶應義塾大学の研究者のチームが、医療分野の先進的アイディアを実現していきます。JSR株式会社、慶應義塾大学、共に思い切ってコンフォートゾーン(安定した居心地の良い場)を出てのチャレンジです。JKiCの「i」=イノベーションには、その思いが込められています。

大学にはなかった文化が企業にはあり、企業側にはなかった文化が大学にはあり、その異なる文化がぶつかりあうことで、新たなものが誕生するでしょう。文化の出会いを推進するべく、たとえば建物のつくりも、企業側、大学側が入り混じるように工夫、同じ空間で相互に作用するようにしました。そして、さまざまな点で柔軟なものにしようとしています。それぞれの研究のスペースも固定せず、その時々、研究に必要であれば大きなスペースを使い、不要になったら縮小するというふうに、柔軟に運用します。

元々、慶應義塾大学医学部は、北里柴三郎博士が掲げた「基礎臨床一体型医学」という理念を百年間、大事にしてきました。JKiCはメカニズムを解明する基礎科学と、メカニズムが不明でも効果があればよしとする応用化学が出会う場でもあります。

JKiCを通じて、本物の価値を生み出していきたいと思っています。一瞬だけすばらしい成果に見える、見せかけの価値ではなく、真に患者さんに役立つ、本物の価値。そのためにはデータは再現性がなければいけませんし、データを集める際には正式な手続きを経て、適正に集めなければなりません。

もちろん、実用化、社会に役立つことだけに価値を置くわけではありません。大学は学問の府であり、すぐには社会に役立たないかもしれませんが、基本的な人間の知、ナレッジを深めていくことが大学の役目です。そこは大事にしつつ、異なる価値観と出会うことで、より大きな価値が生み出せると思っています。