天谷 雅行

慶應義塾大学医学部長

JKiCを若い人が集う場にして、日本のイノベーションへ

JKiCは日本でも初めての、アカデミックと企業の本格的なコラボレーションです。最終的な事業化までを視野に入れて、十年、二十年という長いスパンでパートナーとしてやっていく点が、これまでの産学連携とは異なる点です。JKiCが一大学と一企業の成功体験だけで終わることなく、日本のイノベーションにつながればいいなと思います。

元々バックグラウンドがちがう者が共同作業するのですから、互いの常識のちがいがあり、解決すべき課題はたくさん出てくるでしょう。しかし、共に歩む過程での学び、出てきた課題への取り組み、解決のノウハウすべてが、アカデミックと企業とのコラボレーションの関係をイノベーティブに変えるきっかけとなり、これからの産学連携の日本のモデルになることを願っています。

わたしは医学部長として、短期・中期目標と長期目標それぞれをしっかりもって、それぞれ着実に成果を出し続けるようにリードしたいと思っています。そこがぶれてしまうと、十年、二十年というスパンでは成果が出ないことになってしまいます。わたしはこのプロジェクトの始まりの世代として、そのことを意識してリードしたいと思います。目標設定にあたっては、JSR株式会社、慶應義塾大学、共に英知を結集し、さまざまな方の意見を聞きます。

JKiCは信濃町にありますが、医学部のみにとどまらず、ライフサイエンスに関わる理工学部、薬学部、看護医療学部、また社会学系の文学部、法学部、経済学部、商学部、さらに総合政策学部や環境情報学部など湘南藤沢キャンパスや鶴岡タウンキャンパス、慶應義塾大学先端生命科学研究所とも連携して、オール慶應で成功させたいと思います。

科学者は、最終的に世の中が豊かになり、その恩恵を多くの方がこうむるようにすることが一番大切だと考えています。

創意工夫といった医学の中にとどまるものではなく、社会実装のためのプロセスがイノベーションなのかもしれません。

大学は人を育成しながら、組織が進化していくという形態を取り続けています。若い人が次から次へと入ってきて、いろいろな考えをエスタブリッシュな人たちとぶつけあい、やがてはその若い人が時代の担い手となって、次の世代へ伝えていく、こういう人の継続性があり、それがアカデミックの強さだと思います。

JKiCの1階は、広く開放します。そこに学生をはじめ、人が一息つこうとやってきて、思いがけないインタラクションがあり、思いがけない会話があり、そこにヒントがあって、机にしがみついているだけでは出てこなかった発想が生まれる……そういう創造の場になってほしいと思います。人が集う場になるよう、たとえばアートを加えるなど、さまざまな演出や企画もしていきます。若い人たちが持つポテンシャルは無限であり、JKiCを、彼らの成長カーブを伸ばす研究環境を提供し続ける場所にします。